〘英語-sappan タイ語-ฝาง ファーン(Fang) インドネシア語-kayu secang 中国語-苏木(スームー)sū mù、苏方木(スーファンムー)sū fāng mù ヒンディ語- ベトナム語- 〙
染料でも生薬でもあるお茶
蘇芳を「食材」と呼ぶのは、ちょっと無理があるかもしれない。木の芯だし、味はほとんどないし。それでも、アジア各地で親しまれていて「わ、ここでも蘇芳!」と驚くこと数回。その出会いは、「体にいいお茶」としていただいたタイのおみやげだった。
なんだろう、この木片。そう思いながら、軽く煮出して驚いた。とても美しいピンク色の液体になったのだ!
この木片をどうやって調べて蘇芳と知ったのか、じつはあまりよく覚えていない。ただ、分かったときはかなり興奮した。蘇芳は藍やウコンと同じく布を染める重要な染料かつ薬である。日本にも奈良時代からすでに大量に輸入されていたという。そんなことにも興味があったけれど、なにより「蘇芳」というかぐわしい名前が気になっていたのだ。その蘇芳にこんな形で出会えるなんて!(ほぼ無臭だったのにはちょっと力が抜けたけれど)
次なる出会いは、とあるインド料理会。主催者に「これを煮出してお茶にしてくれる?」と渡されたのが、もしやこれは?と思わせるオレンジ色の木片。パッケージの文字はまったく読めないながら、煮出せばやはりピンク色。蘇芳に間違いない!主催者に聞いたところ、ケララでよく飲まれるパティンガムというお茶だという。
3度目はインドネシア。これまたいただきもののWedang Uwuhというブレンドティーの材料のひとつに蘇芳が使われていた。後日ジャカルタで単品の蘇芳茶を発見、kayu secangという名であることを知る。
さて、日本語で蘇芳と訳される植物にはもうひとつある。蘇芳と同じ色素が含まれるブラジル木=パウ・ブラジル(Pau Brasil)だ。もともとはポルトガル人がインドの蘇芳をそう呼んでいたようで、かの地で似た性質の木をみつけ、同じ名で呼んでいるうちに、その土地までもがブラジルと呼ばれるようになったらしい。
まだ合成染料のなかった時代、どちらも染料として珍重され、パウ・ブラジルのほうは伐採されすぎて絶滅危惧種に。もはや両方手に入れて比べてみることはできないが、蘇芳という名がつなぐアジア各地ーポルトガルーブラジルのつながりは、私にとってたいへんいとおしく興味深い。きっとまだこの先、いろいろなところで蘇芳との出会いが待っているに違いない。
参考: CRC World Dictionary of Medicinal and Poisonous Plants
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