イモから学ぶ大航海時代
マレーシア人のメイさんに教わったマレー広東語、「荷兰薯」。ジャガイモのことである。読み方は「ホーランシー」という感じらしい。
以前、中国語教室で教わったジャガイモは「土豆(トゥードウ)」。広東語は辞書を引いてみると「薯仔(シューザイ)」。マレーシア語はウビ・クンタン。なのに広東系マレーシア人はホーランシーというのね、全然違うんだ・・と考えてはっとする。ホーラン=ホーランド、もしかしてオランダのイモという意味?
考えてみたら、「ジャガイモ」という日本の呼び名も、もともとは「ジャガタライモ」。オランダ船がジャガタラ(ジャカルタをそう呼んでいた)から運んできたイモだから、ということらしい。
つまりは、マレー半島にも日本にも、同じような時代にオランダからジャガイモがわんさかやってきたのね!そんなふうにイメージしておしまい、でもよかったのだけれど、興味の矛先がついついジャガイモの来歴に・・・。そして、「ジャガタライモ」はじつはサツマイモだったのでは?という説に出合ってしまった。
「海が運んだジャガイモの歴史」(田口一夫著)。ジャガイモについてほとんど興味を持っていなかった私が言うのもなんだが、これほどまでにジャガイモ愛が語られた本に出合ったことがない。ていねいに大航海時代を読み解いているのだが、その主役はあくまでジャガイモ。日本に初めて入ってきた時期や経由先、「ジャガタライモ」の定説に対する反論が痛快だ。
この時代のヨーロッパーアジアは途方もなく遠い。しかも高温多湿の南洋、ヨーロッパでタネイモを積んだとしても、暑さに弱いジャガイモは確実に腐っていただろう、というジャガイモ目線の指摘は、なるほど!である。そして、家康に仕えたウィリアム・アダムズが琉球から五島経由で平戸に持ち込んだPotatoも、大槻玄沢が著書に書き残したジャガタライモも、じつのところジャガイモであったかどうかは不明、むしろサツマイモであった可能性のほうが高いという。
もうひとつこの本で知ったこと。宮城や福島には、オランダ語のジャガイモ=aardappelに由来する「アップラ」という呼び名が残っているらしい。この本が書かれたのが2016年、今はどうだろうか。さらに長野には、ポルトガル語のカピタンを連想させる「カピタイモ」との呼び名があるという。シンガポールやマレーシアで「カレーカピタン」なるニョニャ料理をよく食べたが、そのカピタンにこんなところで再会するとは。
世界のジャガイモの名を調べたら、さらにわくわくなつながりがみつかりそうな気がする。食材のことば収集、これだからやめられない。
参考: 「海が運んだジャガイモの歴史」田口一夫(梓書院)、「方言と中国文化」周振鶴他(光生館)♢英語|| potato
♢マレーシア語|| ubi kentang(ウビ・クンタン)
♢マレーシア広東語|| 荷兰薯(ホーランシー)
♢中国語(普通語)|| 土豆(トゥードウ)(tǔ dòu)
♢中国語(広東語)|| 薯仔(シューザイ)
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