2023-02-15

真珠とビーズをめぐる旅 01 真珠とビーズ、そしてアジア

身近にあるにも関わらず、今まで気づかなかったことやものにある日突然魅了される。これがあるから生きていける!と思う瞬間。今のKOELにとって、真珠とビーズがまさにそれ。大航海時代とか古代とか、スパイスとか交易とか、インドとかペルシャとか、そんなことばとの親和性を知ったらもう・・!あっという間に心を占められてしまった。ときめきというやつは、それがどんなに魅力的だったとしても、時が経つにつれて当たり前に日常になじんでいくか、考え過ぎて頭の中がぎゅうぎゅうになったあげくにいつの日か忘れてしまう、そのどちらか。だから、今でしか感じられない初々しい経験を「えっ、そんなことも知らずに生きてきたの?」と言われること覚悟でつづっていきたいと思う。真珠とビーズにまつわる1年生日記、よろしければお付き合いください。

by Takashima Keiko

詳しい話はまた後日になるけれど、そもそもの事情を一言でいうなら、ビンテージな真珠とビーズがまったく別のルートで手元にやってきた。これがきっかけ。きれいだなあ!で終わってもよかったのだが、うっかりその深遠なる世界に足を踏み入れてしまった。そして、その日から追い風がびゅんびゅん吹いてくるのだ。もっと動け、もっと学べ、と。こうなると、もう止まらない。

beads
インドネシアのコレクターから託された色とりどりのビーズ。
■昔のインドと、昔の日本。

真珠のことを考え始めたら、今まで見えなかったことが見えてきた。例えば、インド映画を観ているときにふと思う。あれ?みんな真珠らしきものをつけている。王様も妃も、聖職者さえも。そして、紀元前のインドが舞台でも。しかも、かなりじゃらじゃらと。
いったい人はいつから真珠を身につけるようになったのだろう?気になる。もしかすると先史時代から愛されていたのかもしれない。なにせ真珠は貝から取れるのだ。磨く必要もなく、そのままの姿で美しい。あんなきらきらしたものが出てきたら、それは宝物だって思うよね、どんな時代の人でも。
真珠といえば日本のイメージが強いけれど、大河ドラマや歴史映画に真珠はほとんど登場しない。着物には真珠は不要ということなのか。そういえば明治生まれの祖母だって真珠はつけていなかったなあ。ということは、日本人は洋服を着るようになって初めて真珠に目覚めたということ??

■「ビーズ」というキーワード

そんなことをつらつらと考えていたときに、松濤美術館の「ビーズ展」に出合う。告知には「入館日当日にビーズ(さまざまな部材に穴を開け、複数個を糸などでつないだもの)を身に着けてご来館されたお客様は、通常料金から2割引でご入館できます」とある。割引も魅力的だけど・・・もっと気になるのが「部材に穴を開けてつなげる」のがビーズ、という解釈。とすれば、真珠はまさにビーズということになる。真珠とビーズか。まさに手元にあるこのふたつ、使うシーンや好む人から考えるとまったく別物のように思っていたけれど。

展示は12万年前と現代のビーズのユニークな対比からスタート。大きな貝に穴を開けてつないだだけでもビーズ、プラスチックのケースをつないだもの(なんと注射針のカバーだそう。とても美しいデザイン、子どものお守りとして作られたらしい)もビーズ。ここでもいきなり「ビーズ」の概念を覆される。この展示の監修者、国立民族学博物館の池谷和信教授の言葉を借りると「ビーズは人類を写す鏡」。ビーズは10万年以上前に誕生して世界中に広がったという。小さなビーズから文化や歴史の多様性が見えてくるというお話に興奮。ビーズは食べられるわけでもなく、寒さから身を守れるわけでもない。「かざる」という行為を10万年前の人々はどんなふうにとらえていたのだろう。小さくて運びやすく、交易品としても世界をかけめぐったビーズ。もしかして、手元にやってきたビーズの中にも遠い旅をしてきた子がいるかもしれない、と妄想したりもする。

日本のビーズ文化も縄文からあるのに、衣装が発達した平安時代に消えてしまった。一般的に、布や服の文化が薄い時代やエリアのほうがビーズは発展しやすいそうだが、それでも西ではドレスにビーズや真珠をつけた衣装がある。でも日本の着物文化にはない。真珠だけでなくビーズさえも必要としなかった着物の文化、それはそれでとても興味深いとは思うのだが。

真珠もビーズも、キーワードとしてこれほどおもしろいものはない。そう気づくのはもう少しあとのこと。なぜ真珠なのか、なぜビーズなのか。そんなところを少しずつお伝えしていきたいと思う。

参考: 「ビーズでたどるホモ・サピエンス史〜美の起源に迫る」池谷和信 編(昭和堂)、「つなぐ かざる みせる ビーズ」池谷和信 編(国立民族学博物館」、松濤美術館講演会「人間にとってビーズとは何か」


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