上海でことば探し
居心地のよいブックカフェ
昔あちこちで見かけた大きな書店こそ少なくなったものの、中国の人はやっぱり本への愛があるなあと思う。日本と同じく活字離れと言われているらしいけれど、たくさんの字を生み出し、何ごとも文字にして残すことをたいせつにしてきた彼らが、そう簡単に本や書店文化を手放すはずがない。なんとなくそう思っていたので、上海で居心地のよいブックカフェをみつけるたびに、ほーらね!とニヤニヤしてしまった。
フランス租界の小さなブックカフェで目に留まったのは食材辞典。さっそくコーヒーを頼み、ゆっくりとページをめくる。まずは、トラックの八百屋さんで購入した野菜をチェック。科で分類されているので中国語でも探しやすい。「胡芦」という名のそれは、見た目からしてウリ科。なるほど、ユウガオか!くるくると回してかつらむきのような動作をしていたのは、ユウガオから作るカンピョウの説明だったのかもしれない、と気づく。
ウリ科、イネ科、アブラナ科あたりは分かりやすいが、セリ科は人参から始まり、アジョワン、クミン、フェンネル、コリアンダーと続く。スパイスがこんなに詳しく載っている中国語の食材辞典を発見したことに興奮しかけたのだが、奥付を見ると、なんと翻訳本・・。なるほど、そういうことか。
野菜もことばも「ファミリー」があるけれど
さて、そんなオチはあったけれど、コーヒー片手に調べものに没頭できるのは至極の時間だ。そして、この翻訳本のおかげで食材とことばの共通点に気がつく。どちらも「家族」がある、ということ。
野菜も家族(科)で追っていくと分かりやすいが、言語も家族で分類すると理解しやすいようだ。ドイツ語―フランス語―イタリア語―スペイン語などは、言語学上で最大のファミリーである「インド・ヨーロッパ語族」である。だから、串刺し検索ができる辞典たくさんあって、ヨーロッパを回るときは辞書1冊で間に合った(紙の辞書を持っていく人は今は少ないだろうけれど、昔は必須!)。これに対してアジアは、きょうだいのように見えて実は他人、という言語が多いせいか、ひとつの野菜のことばを調べようにも、翻訳サイトくらいしか手っ取り早い方法がみつからない。
だったら自分で作ってみたらどうだろう?それも限りなく楽しく。みんなでわいわいと。個人的な経験をもとに、ときには妄想も交えて。正しさより楽しさ重視。
それにもしかすると、何が正しいかなんてそんなにたいせつなことではないのかもしれない。たとえば、ピーマンでも「うちはピー助と呼ぶのよ」とか、「お父さんが嫌いなやつ」とか、それだって正しくないわけではない(あれ?ピーマンってそもそも何語だろう?)。コリアンダーリーフもなぜかタイ語のパクチーと呼ばれるようになって久しい。結局、ことばはそのコミュニティで通じればそれでよいのかもしれないと思ったりもする。
カタカナ表記もまたしかり。現地語に近い表記vs分かりやすさがいつの時代も問われるけれど、外来語を表す文字があるというだけで、ある意味すごいことではないだろうか?と、謎解きのような中国語の外来語を前にして思う。
そんなことを考えながらスタートした、KOELのことば収集。「楽しさ重視」をご容赦いただきつつ、地域による違い、最近の言い方、新説、勘違い発見!などのコメントは大歓迎。一緒に楽しんでいただければ幸いである。
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