2021-07-08

from上海-1 香椿を食す

淘宝で取り寄せた香椿。中国語だとシァンチュン(xiāng chūn)。

Text and photo by Enosawa Meiko

4月、上海のスーパーで見たことのない野菜に出合った。もうすぐ木になるのか?と思うほど硬そうな枝の先に、赤い若葉がついている。 という表現では食べる気が失せてしまいそうだが、日本の山菜のように、この時期には一度は食べておかないと!という雰囲気がムンムン。ひとつ手にとってみる。

さて、どうやって食べるのだろう。初めての食材は念のため検索で調理法を確認。おいしそうだからとそのまま食べてあとでお腹痛くなったりしたら困るし。どうやら生で食べても問題はない模様。見つけたレシピを参考にさっと湯がき、ゴマ油で和える。お、硬そうに見えた枝も軟らかくておいしい。ごく軽い苦味もこの季節にはぴったり。中国で新たな食材に出合えるのは、新しい友だちが一人増えた気分。

数日後。KOEL主宰のケイコさんから「香椿って知ってる?」とメッセージ。日本で「チャンチン」と呼ばれる木を知り、食べられると聞いて興味を持ったという。そう、あの赤い葉っぱがまさに香椿!興奮気味に香椿を語ろうとしたが、写真も撮っていなかったことに気づく。これはもう一度チャレンジせねば!

が、スーパーにはもう見当たらない。旬を過ぎてしまったのだろうか。1年待つのはちょっと長過ぎるよね、と思っていたところ、レストランのメニューで「香椿苗」という文字を発見し、即オーダー。運ばれてきたのは、先日の赤い葉ではなくカイワレダイコンのような野菜だった。カイワレとは香りや味が違う気がするが、ニンニクベースのタレがかかっているようで素材の味がよくわからない。このカイワレくんがあの赤い葉になるのかも謎。

これはなんとしてでももう一度香椿を食べてみなければ。そんなときに頼れるのが淘宝(タオバオ)という中国のECサイトだ。スマホひとつで中国全土からあらゆるものが取り寄せられる。香椿も産地直送、さらにレストランで食べた香椿苗の水耕栽培セットまで見つけてしまい両方お買い上げ。

香椿苗。栽培を始めて20日目、ちょうど食べごろ。

数日後、無事に香椿が届く。そのまま花瓶に飾りたくなるような美しい赤紫色の葉。そして何より驚いたのは、箱を開けた瞬間に草の香りとともにしたニンニクのような香り。そうか、レストランで香椿苗を食べたときに、ニンニクのタレがかかっていると思ったけれど、あれは香椿の香りそのものだったのだ。

葉っぱを生でかじってみる。青い草の味、続いてニンニクの香りをしっかり感じる。今回はさっとゆでて塩とオリーブオイルで。おお、シンプルな味つけなのに、秘伝のドレッシングをかけたかのような一品に!おもしろいのは味だけでなく、その姿もまた独特。熱湯に入れた瞬間に赤から緑に変身して、お皿に盛り付けたときには赤かったことなど微塵も感じさせない。栽培キットのほうは、水栽培20日程度で香椿苗を収穫。種の段階からさわやかなスパイスような香りがして、食べごろになるとあの独特なニンニク香。この苗もあの赤い若葉も同じ種類の植物だと実感する。

火を通すとすぐに色が変わる。

さて、自家栽培の香椿苗、試しに手巻き寿司の紫蘇代わりに使ってみることに。シンガポールに住んでいたころ、紫蘇の代わりにパクチーを合わせたら思いのほかおいしかったことを思い出し、主張の強い香椿苗もいけるのではないかという公算。ネギトロとしめ鯖に少しの塩とオリーブオイルであえた香椿苗をプラス。うん、やっぱり勘は間違っていない。新しい薬味として日本でもおすすめしたいと思うほど。

香椿は「椿」にあらず

なんともユニークな食材だが、おもしろさはこれだけではない。香椿という名前からあの冬に美しく咲くツバキを連想する方が多いと思うが、実は全く別ものらしいとケイコさんより情報。確かに香椿と椿の葉は似ても似つかない。調べると、香椿の木は幹がまっすぐ伸びて高さが20メートルにもなる落葉樹で、春だけ枝先に赤い新芽が吹くらしい。

どうやら日本の「椿」と中国の「椿」は違うものを指しているようだ。中国ではツバキは山茶と呼ばれている。いったい「椿」という文字はどこからきたのだろう。寺井泰明氏の「花と木の漢字学」によれば、宋の時代の「荘子」に「大椿という木は八千年をひと春とし、八千年をひと秋として生きるとてつもない長寿の木であった」と、伝説上の長寿の木として登場するらしい。一方、日本では「椿」の文字は日本で独自に作られ、万葉集のころから使われているという。荘子の大椿と偶然の一致なのか、それとも当時の日本人は大椿の話を知っていたのか。そして香椿との関係は?

寺井先生の本を読みながら私も勝手な妄想してみる。真相はタイムスリップでもしない限り分からないかもしれないが、「椿」という文字を改めて眺めてみると「春の木」なんてとっても素敵な字。きっと中国の「椿」も日本の「椿」も春の訪れを告げる大切な存在だから名づけられたのではないかなと思った。スーパーでふと手にした食材にこんな話が隠れていたとは思ってもいなかった。

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